仔羊肉とたっぷり野菜をコトコトと

更新日:2021年9月17日


Are you going to Scarborough Fair? Parsley, sage, rosemary, and thyme...


ラジオの向こうから流れる「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム」という賛美歌のように崇高で神々しいハーモニー。サイモン&ガーファンクルのスカボローフェアという曲の一節が、不透明で優しいガーゼのカーテンみたいになって残っている。


調べてみたら、この曲は1966年にリリースされたらしい。何十年もの月日が流れ、しかも、あの曲を初めて耳にした日は、きっと歌詞の英単語すら聞き取れない子どもだった。そのはずなのに、あの美しい旋律は今でもしっかりと記憶の奥底に刻み込まれている。


ただ、呪文のように刻まれた「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム」が何のことなのかを知ったのは、あれからずっと大人になってからだった。

パセリ セージ ローズマリー タイム



いずれもヨーロッパの人々の暮らしの中にしっかりと根付いたハーブで、この歌の舞台になっているイギリスをはじめ地中海一帯の国々では、香草として香りそのものを楽しんだり、料理にアクセントとして加えてみたりする以外にも、家庭医療の大切な薬(メディカルハーブ)として重宝されている。 パセリが魚介類の臭いを、そして、セージが肉類の臭いを和らげる。セージとおなじシソ科のローズマリーは同様の消臭効果以外にも、その独特な香りが心を落ち着かせ、タイムは殺菌効果がある。タイムはまたハーブティーにするとミントのような爽やかさが楽しめる。 こういった使い方は、親から子へと生活習慣の一部として伝えられ、今でも都会から離れた片田舎では、何気ない生活の一場面にハーブがごく自然に取り入れられている。 そんな話をすると、たまに、お洒落だとか羨ましいとか言われることがある。けれども、全くお洒落でも羨望の的でも何でもない。


ローズマリーやタイムは家のすぐ側の野原に野生で生育しているし、パセリは購入するものではなく魚屋でもらってくるのが当たり前になっているくらい至極簡単に、しかもタダで手に入るのだから。





去年の末あたりから体調を崩し、ハーブティーにお世話になっていることもあって、ふとした拍子に我が家の小さなキッチンの片隅に、数種のハーブの鉢植えがやって来た。 以来、土が乾き過ぎてはいないか、葉は元気か、日が当たりは十分か、あら、ちょっと枝が伸びすぎかなと彼らの成長が気になって仕方がない。 3人の子どもたちが成人し、こうしてあれこれ心配することが少なくなってしまったので、今度はハーブの世話をしているということなのだろうか。


結局、私ときたら、自分の時間がないから自由になりたいとか言いながも、誰かのことを気にかけていないと気が済まないお節介焼きなのだと思いがけずハーブたちに納得させられる。 ワイングラスを傾けながら、そんな話を夫にてみた。


「ハーブの世話ならスマホも学費はいらないからね。いいんじゃないの」


急に引き戻された現実世界。

子どもたちもハーブも、暮らしに彩りを添えてくれるのは同じこと。世話をやき、気にかけながら、ちゃんと愛情を込めてあげたい。





間延びしたタイムの小枝を数本切り取る。タイムはハーブの中でも煮込みに適するので、子羊の肉とたくさんの野菜を一緒にコトコトと煮込む。

「お! 何か今日はいい匂いがするねぇ。赤ワインがいいかな」

早速、夫が嬉しそうに鍋の中を覗きにくる。


ほら、気づかない? あなただって、子どもたちのバスケ試合を見ている時と同じ顔をしているのよ。

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